コラム

クリエイターに必要なことは「辞めないこと」と「プロデューサー視点」 ―中村俊介・江口カン・谷口亮 トークセッション

2019年5月10日にトークイベント「スタートアップシティ福岡とクリエイティビティ」が福岡県福岡市のevoL by GRANDMIRAGEで開催されました。このイベントは福岡市にベースを置く株式会社しくみデザイン代表の中村俊介が平成30年福岡市文化賞を受賞したことを記念したもので、トークセッションには中村氏に加えて映画監督で映像ディレクターの江口カンさん(KOO-KI所属)、そしてイラストレーターの谷口亮さんが登壇しました。

中村だけでなく江口さんや谷口さんも福岡に拠点をおいて活動しており、また3名ともに福岡市文化賞を受賞しています。そして江口さんは東京オリンピック・パラリンピックの招致映像『Tomorrow begins』のクリエイティブ・ディレクション、そして谷口さんは東京オリンピック・パラリンピックのキャラクター「ミライトワ」「ソメイティ」を考案したことで知られています。

福岡、そしてクリエイティビティという視点からどんなトークを繰り広げられたのでしょうか。セッションの模様をレポートします。

司会を務めたのはエフエム福岡の香月千鶴アナウンサー。トークセッションは香月アナがキーとなるトークテーマを提案し、その話題に応じて話が広がりました。

司会で会場を盛り上げた香月アナも江口さんと中村さんの大学の後輩にあたる

この3人が一箇所に揃って話をするのはこのトークセッションが初めて。ただそれぞれ個別には接点があったそうです。

江口 カン(以下、江口):中村くんは僕の大学の後輩なんですよ。九州芸術工科大学(現:九州大学芸術工学部)の後輩で。なので何度か飲みに行ったこととかあるんですよ。サシ飲みも一回あるかな。

中村 俊介(以下、中村):僕と谷口さんは同じタイミングで福岡市文化賞をいただきました。なので3月の授賞式で初めてお会いしたんですよね。

江口:僕は谷口さんとはこうやって話すのは初めてなんですけど、だけどさっき控室で話をしていたら、僕の監督した映画『めんたいぴりり』の撮影にエキストラで参加してくれていたんだって。東京オリンピックのマスコットを描いた人がエキストラで参加してくれてるとは思ってなかった。驚きましたね。

谷口 亮(以下、谷口):でも僕がエキストラで参加したシーンは本編ではカットされてるんですよね(笑) 最近は『電気海月のインシデント』ってハッカーをテーマにした映画にもエキストラで参加しましたよ。こちらはちゃんと映ってます。

江口:エキストラ好きだね(笑)

江口:それにしてもこのステージ上の絵面、すごいですよね。どうですかこの坊主三人組。谷口さんとか風貌で子どもから怖がられませんか?

谷口:小さい子どもからは凝視されますね。多分ヒゲ坊主を見たことがないからなんでしょうけど、すごく不思議そうな目で見られますね。

中村:ヒゲ坊主って子供ウケいいんですよね。パーツがわかりやすいんですよ。

谷口:逆に青年とかには怖がられますね。小さい子は純粋なんで、たぶん心を見てくれてるんじゃないかなと。

江口:年令を重ねると余計な知識がついちゃうからね。既成概念で人を見るのは本当に良くないですよ(笑)

トークセッションには髙島福岡市長よりビデオメッセージが寄せられた

福岡はクリエイティブに変わったか?

トークセッションはまず今の福岡の姿について。江口さんと谷口さんは福岡出身で、中村さんは大学院進学を機に福岡に移住。そして3名とも自身の活動を福岡ベースでスタートしています。そんな3人に今の福岡市がどのように映っているかを聞いてみました。

中村:大学院進学で福岡に住むようになって、そのときから今までになにかが大きく変わったかというとそうでもないんですよね。僕が福岡で一番好きなところは、いろんなものがゆるいところなんですよ。ずば抜けてこれが面白い!とかこれがスゴい!というのは正直あまりない。だけども、どんなものでもそこそこのクオリティを保ってはいる。そこに福岡のゆるさを感じるんですよね。

ただ、ここ最近で変わったことといえば、やっぱ注目されている感じがあるところですかね。仕事で東京に行って、打ち合わせしたり話したりするなかで、最近福岡熱いっすねと言われることは増えました。

谷口:僕は学生時代にアメリカに留学していた期間を除くと、ずっと福岡に住んでるんですよ。他の県に住んだことがないんです。

中村:仕事もずっと福岡ですか?

谷口:仕事はずっと家でやっていますね。福岡が面白いところだなって感じるのはお祭りが多いところかな。福岡は日本一お祭りが多い県だって聞いたことがありますね。いつもどこかでお祭りをやっているので、陽気な人ばっかりな気がするんですよ。

江口:お祭りには出るんですか?

谷口:出ませんね。見には行きますけど。

香月アナ:映画のエキストラには出るけど、祭りには出ないんですね(笑)

谷口:出ませんね(笑)見に行くだけだからお祭りが好きなんだと思います。お祭りが多いこととリンクするのかもしれないけど、福岡って陽のエネルギーがすごく多い街だと感じますね。しかも小さい頃から「福岡はよいところ」って刷り込まれているので、悪いイメージを持ったことがないんです。だから住むなら福岡しかないし、外に出る気もないですね。

中村:いろんなところで指摘されていますけど、福岡の人は本当に福岡のことが好きですよね。好きすぎると言ってもいいと思う。移住してきて、福岡の人に福岡の悪いところを言ったらめちゃくちゃ怒られてビックリしたんです。

谷口:その怒り方もちょっと特徴的なところがあって。福岡の人は福岡の悪口を言われたら一応認めるんですよね。受け止めるというか。でもそのあとに「でもね」って福岡のいいところをとうとうと語り始めますよね。

江口:谷口さんは福岡のどちら出身ですか?

谷口:福岡ですね。福岡市。

江口:僕は生まれが久留米で、育ちが香椎なんです。だから僕も生まれてこのかたずっと福岡にいますね。東京には行くけど、これは仕事しに行っているだけです。

東京はね、歩いているだけで向こうからくる人がボンボンぶつかってくるんですよ。これがあるから本当に東京は嫌いなんです。だけど福岡はみんなが距離感を持ってて、ちゃんとお互いが避けようとするんです。これが福岡のいいところだなぁと(笑)

だけど最近、福岡でも人とぶつかるようになってきたんですよ。最近すごく福岡が変わったなと僕が感じるひとつの象徴ですね。そしてこれが意味することっていろいろあると思うんですけど。今の状況で「福岡はいい街」って言えるんでしょうかね。

「ミライトワ」「ソメイティ」を思いついたのは自転車の上

中村:谷口さんの描いた「ミライトワ」「ソメイティ」って、どんなふうに思いついたんですか?

谷口:あれは大濠公園の横を自転車で走っているときにふと思いついたんです。それでラフスケッチを描いて、仕上げにかけたのは1日くらいかな。

江口:それがオリンピックのキャラクターってすごいよね。しかもその直前までは仕事がなさすぎて、廃業を考えるくらいだったんでしょう?

谷口:廃業まではいかないですけどね(笑) だけどイラストレーター以外のアルバイトをしないと貯金が尽きてしまうところでしたね。

江口:でもキャラクターが採用されたあとは仕事がたくさん来るようになったでしょう?

谷口:確かにいただく仕事の依頼は増えましたね。ただオリンピックのキャラクターに採用していただいたことで、僕がすごくお金持ちになったって思われていることが多いのですが、それはちょっと違うんですよ。僕がもらったのは賞金の100万円、正確には税金を引かれて89万円だけで、オリンピックのキャラクターグッズがどんなに売れても僕には一銭も入らないんです。

江口:それはおかしい! おかしくないですか、これ。クリエイターを大事にしようとか、福岡はスタートアップシティだとか言っているけれど、まずはこういうところを変えないとだめですよね。

中村:東京オリパラに福岡は関係ないですけどね(笑)

ストックしたアイデアをどう活かすか

中村:江口さんはどんなところからインスピレーションを受けますか?

江口:僕、打ち合わせとか人と話してるときもずっとiPhone触ってるんですよ。だからすごく誤解されやすいんですけど、実はそのときってiPhoneでメモを取ってるんですよね。メモ魔なんですよ、僕。飲み会とかでも、これはいいなと思ったアイデアが浮かんだらすぐメモしてますね。そうやって思いついたアイデアを貯めておいて、必要なときに取り出す感じかな。本を読んでインプットしようってことはあまりないですね。

谷口:僕もそんな感じですね。普段からいろんなロゴなどを見て、これはどうやって考えたんだろうとか、何の意味が込められているんだろうって考えていますね。例えばしくみデザインのロゴだったら、しくみデザインのSとDがモチーフなんだな、とか、それを人型で表現しているのはなぜだろうか、とか考えているんです。

しくみデザインのロゴ。このロゴのデザイン秘話はこちらから読めます。

谷口:そしてそのときに考えた「こんなふうにアルファベットをロゴに使うとおもしろいぞ」みたいなものをアイデアとして自分の中にストックしておいてネタ的に使いますね。キャラクターデザインのときは少し違うんですけどね。

中村:僕も谷口さんに近いかも。ただ思いついたアイデアをそのまま全部ストックするには記憶力が足りなくて。脳のキャパシティがすごく小さいんですよ、僕(笑)

江口:インテルさんから賞をもらったんでしょう? 大きなメモリをもらってきたらいいのに(笑)

中村:それができたらいいなぁ(笑) でもアイデアを丸々覚えておくことは無理なので、アイデアを思いついたときはそれを最小単位まで分解することにしていますね。それだと記憶量が少なくて済むし、取り出しやすいじゃないですか。応用もしやすいですしね。小さなアイデアの要素を組み合わせることで、思わぬ大きな問題解決につながったりしますしね。

あともうひとつ、インスピレーションのためにやっていることはしゃべること。誰かにしゃべっていると自然とアイデアの整理とか並び替えなどができるんです。アイデアって打ち合わせで出てくることって多いんですよ。例えばクライアントワークをするときは最初にお客さんと会って話をするんですけど、話しているうちにほとんどゴールにまで到達することが多いですね。大抵その場で決まっちゃう。持ち帰って1人で考えても新しいアイデアが出てくることはあまりないですね。

江口:しゃべるなかでいろいろと整理されていきますよね。島田紳助さんが言っていたことなんだけど、おもしろい話があったとしても、それを最初の一回からネタとしてうまく昇華させることってなかなかできないんだって。しゃべる過程でネタとして構成ができあがっていくから、おもしろ話をネタとして完成させるためには同じ話を3回は人にしゃべる必要があるそうです。

会場には福岡のクリエイティブに関わる人、そしてクリエイターを目指す卵たちが詰めかけました。トークセッションの最後はそんな人たちに向けたメッセージで締めくくられました。

辞めないことが一番大事

谷口:これはいつも言っているのですが、辞めないことが一番大事ですね。続けること。

江口:谷口さんは路上で作ったものを売っていたんだもんね。

谷口:そうです。オリジナルのキャラクターのグッズを作って、天神で道売りしてましたね。この路上の話を最近いろんなところでするようになったので、僕のことを苦労人だと思ってる人が多いんですよ。でも僕は苦労したことはありません。あれはメディアが勝手につけたイメージですね。確かに貧乏ではあったけど、でも楽しかったし、苦ではなかったですね。

でも、続けることって待つだけとは違うんですよ。できることをつづけながら、アンテナを広げていないとチャンスはつかめない。僕も依頼を受けてキャラクターを描く仕事は続けますけど、でも最終的には自分発信のものでお金が稼げるような次のステップを考えていますね。最近ようやくそのような依頼をいただけるようになったので、まさに辞めずに頑張っている途中ですね。

カオスを飼いならす

江口:僕が伝えたいことは2つあります。まずはカオスについて。今の社会に足りないものってカオスですよ。

中村:いろいろちゃんとしすぎている?

江口:そうそう。僕は最近、あるアプリ的なものを作ろうとしていて、メンバーを集めて話してるんですけど、これが久々にカオスな感じですごく面白いんですよ。出てくるアイデアや話が面白すぎて、僕は単なるまとめ係をやっているだけです。面白いものってカオスから生まれてくるんですよね、やっぱり。

でも今ってほとんどのことが整理することばかりになっているじゃないですか。カオスであることが認められづらくて、ちゃんとしましょうみたいな。これはよくないです。カオスをカオスのままにちゃんと飼い慣らせるようになる必要があります。福岡もカオスをカオスのまま認められるようになれば更に面白くなるんではないかな。

2番目の話はその続きなんですけど、じゃあそのカオスを飼い慣らすのは誰かという話で、それがプロデューサーなんですよね。今の日本ではプロデューサーの仕事ってちょっと曖昧になってしまっていると思う。

江口:なぜさっきのアプリの話をしたかというと、そのアプリを一緒に作ろうとしている人たちって、実は商社の人たちなんですよ。日本で一番か二番かはわからないけど、すごく大きな会社の人たち。商社の人たちって一人ひとりが商人なんですよ。でも一緒に仕事をしてみると、その「商人」って言葉から受ける印象とは全然違う。どうやってお金を稼ぐかということをすごくクリエイティブにやってるんです。これがすごく面白い。でもちょっと考えたら分かるんだけど、すべての仕事は、物を生み出すとか人を喜ばせるという意味ではクリエイティブなんです。

世の中、営業だとかクリエイターだとかの肩書で仕事を分けがちですよね。でもそれって単に肩書に自分が縛られているだけですよ。そしてその縛られた肩書によって諦めてしまうことが多いと思いませんか? そんな環境じゃカオスは生まれるわけがない。肩書とか所属している会社の事業とかに縛られずに、いろんな視点からプロデューサー的に関われるようにならないとダメです。これが僕が最近すごく思ってることですね。最後だけは真面目に話しました(笑)

情報の波の中で自分のプロダクトをどう魅せるか

中村:これは15年間しくみデザインをやってきて、今まさに感じていることでもあるんですけど、作ってばかりじゃダメだよ、ってことをすごく言いたい。作ったとしても、それが知られなかったら作っていないのと一緒なんですよ。

どんなに一人で頑張ってめちゃくちゃ面白いものを作っても、それを誰も知らなかったら、やってないのと一緒。だから自分で知られるための努力をするか、あるいは知らせることがすごく上手い人を探して一緒にやるとかしないとダメですね。

江口:それはまさにプロデューサー視点だよね。

中村:そうですね。もちろんいい作品をつくることは大前提だけど、作っただけじゃ片方の車輪しか出来上がってない。世の中に知らしめてやっと両輪が揃うんです。押し寄せる大量の情報の波にみんなが溺れているような環境で、自分のプロダクトをどう魅せるかまでをプロデュースするところまでが今のクリエイターに必要な能力です。

 


それぞれの経験から語られる具体的な話やアドバイスでありつつも、3人に共通する考え方が見え隠れして、それらが同期して気持ちよいグルーヴを奏でているかのようなトークセッションでした。会場がライブハウスであったことがその感覚を強くしたのかもしれません。セッション終了後は登壇した3名がフロアに出て、参加者に囲まれながら質問に答えている姿も印象的でした。

江口さん監督の最新作『ザ・ファブル』は6月21日から全国の映画館で公開中。谷口さんがエキストラ出演した『電気海月のインシデント』は公開が終わってしまいましたが、谷口さんのオリジナルキャラのLINEスタンプが絶賛発売中です。そしてしくみデザインはAR楽器「KAGURA」やビジュアルプログラミングアプリ「Springin’(スプリンギン)」を用いた、子どもたちに向けた「クリエイティブ教育」をさらに進めていきます。その具体的な構想が語られた基調講演のスライドが公開されていますのでそちらもぜひご覧ください。

登壇者プロフィール

中村 俊介

株式会社しくみデザイン代表取締役。名古屋大学建築学科を卒業後、九州芸術工科大学大学院(現・九州大学芸術工学研究院)にてメディアアートを制作しながら研究を続け、博士(芸術工学)を取得。2005年にしくみデザインを設立。参加型サイネージや、ライブコンサートのリアルタイム映像演出など、数々の日本初を手がける。AR技術を用いて体の動きで音楽を演奏できる新世代楽器「KAGURA」や創造的ビジュアルプログラミングツール「Springin’」を開発するなど、UX(ユーザーエクスペリエンス)分野の先駆者として常に新しい分野を切り開いている。Intel Perceptual Computing Challengeグランプリ(アメリカ)、Sónar+D Startup Competition グランプリ(スペイン)など、国内外での受賞多数。

江口 カン

映画監督/映像ディレクター。KOO-KI所属。福岡出身。ドラクエ(出演:のん、北大路欣也)、スニッカーズなど多数のCMを演出。Webムービーでは、「Baseball Party」(トヨタ)や「COME ON! 関門!」(北九州市・下関市)などのヒット作品を手掛け、国内外にて異例のビュー数を獲得。07-09年、カンヌ国際広告祭で三年連続受賞。09年福岡市文化賞受賞、11年福岡県文化賞受賞。13年、東京2020五輪招致PR映像「Tomorrow begins」のクリエイティブディレクションを務める。ドラマ「めんたいぴりり」が日本民間放送連盟賞・優秀賞(二年連続)、ギャラクシー賞などを受賞。映画は、「ガチ星」(2018)「めんたいぴりり」(2019)に続き、「ザ・ファブル」が19年6月21日全国公開。

谷口 亮

中村学園三陽高等学校卒業後に渡米。1997年にカブリオ大の美術学士を取得。帰国後キャラクターデザイナーとして活動を開始し、ベネッセや博多警察署・防犯協会の「いかのおすし」などのさまざまなキャラクターを手掛ける。2018年にはデザインしたキャラクターが2020年東京五輪・パラリンピックの⼤会マスコットとして選出。2018年福岡市文化賞を受賞。